映画『28日後…』と異なる結末

映画:28日後

2012年ロンドンオリンピック開会式の芸術監督で式典の演出を担当したダニー・ボイル監督が2002年に制作した低予算映画『28日後…』。脚本はアレックス・ガーランド。

ストーリー

怒りを抑制する薬を開発中のとある霊長類研究所。ある夜、精神を冒し即効性の怒りを発するウィルスに感染している実験用チンパンジーが、侵入した動物愛護活動家たちによって解放されてしまう。その直後、活動家の一人がチンパンジーに噛まれて豹変、仲間に襲い掛かる…。28日後。交通事故で昏睡状態に陥っていたバイク・メッセンジャーのジムは、ロンドン市内の病院の集中治療室で意識を取り戻す。ベッドから起き廊下をさまようジムだったが、院内にはまったく人の気配がなかった。人の影を求めて街へ飛び出したジムは、そこで驚くべき光景を目にする…。

感想

これは希望と絶望の物語である。

主人公ジムが目を覚ました時すでに多くの人々は感染している。
避難できた者は海外に脱出済みで、そして避難できなかった人々は希望を絶たれている。
しかしジムは眠っていたので最初は事態を把握できずに戸惑っている。まだ彼は絶望していない。

セリーナは一貫して冷静で、生き延びることに拘っている。
彼女はフランクが死んだあと「彼がいた頃は希望があった。」と言ったが、フランク達に合う前の彼女がなぜ絶望してないのかは解らない。もしかしたら大量の精神安定剤が彼女を絶望させなかったのかもしれない。

フランクとハンナはお互い肉親が共に居る。
特にフランクは我が子の手前ということもあるだろうが、いつも楽観的に振る舞い周囲を和ませる。
彼らはマンチェスターに在るという軍のキャンプに避難することに希望を見出していた。

しかし彼らはフランクを失い、辿り着いた基地にもウェスト大佐が率いる小さな分隊があるだけだった。
「感染に対する答え」は「感染したものは人を襲うこと以外は何もできず、いずれは死ぬ」という救いの無いものだった。
もうこの時点で”感染者を治療して元の平和なイギリスに戻りました。”というハッピーエンドは期待できなくなる。

基地の兵士たちは「イギリス以外にも感染者が発見された」という情報を得ており、人類は感染に敗北したと感じている。
その中でもミッチェル少佐だけは悲観していなかったが、彼は変わり者らしく誰も耳をかさない。
大佐は基地を足がかりに新しい国を作る目的をもっている。しかし将来を悲観した部下が自殺したことから、兵士たちに希望を持たせるために彼らに女を与えるという約束をする。
さてこの時点で感染拡散から約1ヶ月が経過してるのだが、仲間が居て武器もあり戦うことのできる兵士がなぜこんなに絶望しているのかはちょっと解せない。
過去に起きた兵士の自殺が原因か、あるいは感染した部下を鎖に繋いで観察するという大佐の非情さが救いのない空気を作っているのかもしれない。しかしたった1ヶ月で女性を物資扱いするようになるほど荒むものなのか、兵士たちのこれまでが描かれていないので少々リアリティに欠ける。

ただし「仲間と協力して感染に打ち勝ちました」みたいな単純なストーリーだったら、面白くならなかっただろうから大佐たちが『北斗の拳』でいうところのモヒカン役であったことには非常に意味がある。

紆余曲折あった絶望に対して、ラストに与えられる希望のシンプルさがとても良い。

4つの異なる結末

私は映画版のラストに満足したが、この映画には複数の異なる結末があるそうだ。
DVDのエクストラ・トラックとして収録されているらしいが、日本版のDVDにも収録されているのかは解らない。

Wikipedia: 28 Days Laterには異なる結末について次のような記述がある。

ジムは病院で死ぬ

ジムが撃たれた後、セリーナとハンナは彼を連れてさびれた病院へ行く。
セリーナはハンナの手を借りてすぐに救命処置を行うが、ジムは息を吹き返さない。
ハンナは取り乱して、これからどうするのかと悲しみに暮れるセリーナに問う。
セリーナは「行こう」と言って、彼女たちは荷物と銃をもってジムの死体から離れる。
イブニングドレスを着たまま銃を装備して病院を去っていく二人。

ボイルとガーランドは、「これが最初に映画を撮ってプレビューされた結末であったが、あまりに望みがないので却下された。」とDVDで解説している。
セリーナとハンナが病院を去る結末は二人が生き延びることを暗示していたが、試聴客は二人が死にに行こうとしているように感じた。

ボイルとガーランドはこの結末を気に入っており、”本当の結末”と呼んでいる。この結末ではジムはストーリーの最初と同じように最後も誰もいない病院のベッドに居る。

この結末は2003年6月25日から始まった劇場版でクレジットの後に”what if …”という文字の後で上映された。

病院の夢

ジムが病院で死ぬ結末にも続きがある。
ディレクターによって明かされた、フルバージョンのオリジナル結末。”本当の結末”の後に続いて次のシーンになる。

ジムは朦朧とした意識の中で自転車で転倒する前のことを夢をみる。
映像はセリーナとハンナが救命しているシーンにカットバックする。
そしてジムの夢は続き、車が彼に衝突するフラッシュバックの瞬間に手術台の上でジムは死ぬ。

ジムの死後に救助される結末

大まかな編集が完了しただけの、映画の一番最後に付けられたかもしれない別バージョンの結末。
“本当の結末”(ジムは病院で死ぬ)でジムが死んだ後のシーンなので、ジムは居ない。

セリーナはコテージで布に文字を縫いながら、チキンをジムに見立ててふざけたように話しかける。
ジェット機が頭上を飛ぶシーンではセリーナとハンナだけが手を振っている。

抜本的に異なる結末

撮影はされず、DVDでボイルとガーランドよって絵コンテで説明された結末。
中盤以降がごっそり変わっている。

フランクがマンチェスターの近くの軍の封鎖域で感染した時に、兵士達は現れない。
代わりにジム、セリーナ、ハンナはどうにかしてフランクを取り押さえ、ラジオ放送で述べられていたウイルス感染を治す方法を探すことに望みをかける。

彼らは封鎖された中に最初にウイルスを創りだした場所である医療研究機関が守られていることを発見する。
内部で食料と水のある部屋に立てこもった科学者を見つけて安心する3人だったが、科学者は「感染への答えがここにある」ということを認めながらも、食料を奪われることを恐れて部屋のドアを明けない。
すぐに死んでしまうだろう人々に感情を持ちたくなかった科学者は会話さえも拒否する。
ドアを破ったり、科学者を説得する試みは失敗し、最終的にジムはドアの前にハンナを連れて来てフランクの状況を説明する。

科学者はしぶしぶながらフランクは完全な輸血で治癒すると言い、設備を提供する。
フランクの血液型に適合するのは自分だけであると知ったジムはフランクが娘と生き延びるために犠牲になる。
ジムは始まりのシーンと同じように医療施設に置き去りにされる。
セリーナ、ハンナとフランクは機関に違反した一団として科学者とともに部屋に入る。
感染して手術台に縛り付けられたジムに死と破壊が近づいていることをコンピューターのモニターが映し出す。

ボイルとガーランドは、この結末は4人以上の生存者に焦点を広げなかったらどんな映画になるのか考えてみたと説明している。
血液の総入れ替えという治療法に信ぴょう性がないと結論づけた。
映画中でたった一滴の血液で感染することはすでに決まっていたことから、「総輸血はあまり意味が無い」「血を全部抜いて血管を漂白したらどうだったかな?」とボイルはコメントした。